1.相続人の範囲
1-1
1-2
- 離婚調停中に夫が死亡しました。私(離婚調停中の妻)にも相続権はありますか。
- たとえ離婚調停中であっても、離婚が成立して離婚届けが受理されるまでは配偶者です。そして、相続人かどうかは、相続開始時、すなわち夫の死亡時を基準として決まります(民法882条)。従って、離婚調停中に配偶者が死亡して調停が終了しても、相続権は失われません。その後再婚した場合であっても、同様です。
1-3
1-4
- 夫と息子がビル火災で亡くなりましたが、どちらが先に亡くなったのかわかりません。相続の順序はどうなるのでしょうか。
- 複数の人が亡くなり、その先後がはっきりしない場合は、同時に死亡したものと推定され、お互いにお互いを相続しないものと取り扱われます(民法32条の2)。このケースですと、ご主人の財産については、息子さんがいないものとして、息子さんの財産については、父親がいないものとして、相続分の計算がおこなわれます。具体的な相続額の計算等については、弁護士にご相談ください。
1-5
1-6
- 父親が亡くなりましたが、同居していた兄が父の遺言書を隠していました。このような兄も相続できるのでしょうか。
- 重大な不徳行為[*]のあった相続人については、いかなる手続きも要せず当然に、相続権が剥奪されます。これを、「相続欠格」といいます(民法891条)。相続欠格の原因は、法律に定めがありますが、このケースの場合、「遺言書を偽造・変造し、破り棄て、又は隠した者」に該当する可能性があります。もっとも、遺言書を隠す行為がすべて相続欠格になるとは限りませんので、注意が必要です。
2.相続財産
2-1
2-2
- 父が在職中に死亡し、死亡退職金が支払われました。また、母を受取人とする生命保険金もあります。これらのお金は相続財産になるのでしょうか。
- 生命保険金は、生命保険契約の効力に従って、相続人が指定した受取人に対して支払われるお金であると一般的に考えられているため、相続財産の対象にはなりません。
他方、死亡退職金ついては、受給権者[*]を定める法律や規定の有無及びその内容等によって考え方が異なります。もし、死亡退職金における受給権者の定め方等からみて、死亡退職金が遺族固有の権利であると評価される場合、その死亡退職金は、相続財産の対象にはなりません。
2-3
- 亡くなった母親は独り暮らしだったので、家主から退去を求められています。退去しなければならないのでしょうか。
- 当該家屋の契約上、借家権が相続人に受け継がれない等の特段の取り決めがない限り、借地人・借家人が死亡した場合、借地・借家契約は従来どおりの内容のまま、借地人・借家人の相続人に当然に引き継がれます。このことは、相続人であるあなたが、それまで借地上又は借家に居住していたかどうかにかかわりません。
従って、退去に応じる必要はありませんし、承継にあたって貸主の承諾は不要ですから、貸主の承諾と引き換えに名義書換料等を請求されても、支払う必要はありません。
2-4
- 亡くなった父は、生前経営していた会社の売掛金債務の保証人になっていました。保証人としての債務も相続するのでしょうか。
- 保証債務も、相続の対象となりますので、原則として、売掛金債務の保証債務も相続することになります。
しかし、継続的売買契約における信用保証の場合には、相続人の責任があまりにも広範囲に及んで過酷であることから、相続の対象とならないと考えるのが、判例・実務の傾向です。
なお、相続人は、保証債務の存在に気付くことが難しいため、注意することが必要です。
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2-6
3.相続の放棄・承認
3-1
- 父親が多額の借金を残して死亡しました。借金を相続しないためには、どのような手続きをとればよいでしょうか。
- 借金の相続を回避するには、2つの手段があります。
ひとつは、「相続の放棄」をすることです(民法939条)。相続を放棄すれば、相続財産一切を相続できなくなりますので、損をしないためには相続財産を十分調査する必要があります。
もうひとつは、相続を「限定承認」する方法があります。限定承認では、仮に相続財産のうち資産よりも借金の方が多いことが判明したとしても、相続人は、相続財産の範囲内で返済すれば足り、それを超えて借金を返す必要はありません。他方、相続財産のうち借金よりも資産の方が多かった場合、相続人は、借金を支払った残りの資産を相続することができます。借金の有無やその金額が不明な時は、安心な手続ですが、その反面、相続人全員が申立をする必要性がある(民法923条)等、相続放棄に比べて手続が煩雑であることが難点といえます。
3-2
- 父が死亡しました。生前父の面倒を良くみてくれた母にすべて遺産を相続してもらいたいと考えています。どのような方法があるでしょうか。
- 遺産を特定の人に集中させる方法としては、①他の相続人全員が相続放棄をする方法、②他の相続人全員が相続分以上の特別受益[*]を受けたことにして、「相続分不存在証明書」を作成する方法、③相続人全員で母親がすべてを相続する旨の遺産分割協議をする方法が考えられます。
①の方法による場合、相続放棄をすれば初めから相続人でなかったことになるため(民法939条)、父親の兄弟など、代わりの相続人が出現して結局財産を集中できなくなる可能性があります。
②の方法は簡便な方法ですが、実態に合致していない場合には、事実をめぐり後日紛争がおきないように注意が必要です。また、債務[*]の相続からは逃れることはできません。
③の方法ですと、家庭裁判所に行く必要もなく、期間の制限もありません。後日の紛争を防ぐためには、相続分ゼロの遺産分割協議書を作成しておくとよいでしょう。
どの方法が適当かについては、場合により異なりますので、弁護士にご相談ください。
3-3
- 父が死亡し、父名義の財産(車や不動産)を処分しました。ところがつい先日、父には借金があることが判明したので、これから相続放棄をしたいのですが、可能でしょうか?
- 伺った事情からするとできないでしょう。
相続人が、相続の放棄や承認をする前に相続財産を処分すれば、単純承認をしたとみなされます(民法921条1号)。単純承認とは、相続人が被相続人[*]の権利義務を無限に相続することをいいます。あなたが相続の放棄や承認をする前に、お父さんの財産を処分したのですから、この単純承認にあたり、もはや相続放棄や承認はできなくなりお父さんの借金を含めた権利義務を無限に相続することとなります。
3-4
- 行方不明になっている父の自動車を処分しましたが、後日父は失踪当日に自殺していることがわかりました。先のQ3-3の例によると、単純承認にあたり、もはや相続放棄できなくなるのでしょうか?
- 単純承認となるためには、被相続人[*]の死亡を確実に予想しながらあえてその処分をしたことが必要だとするのが判例・実務の取扱いです(最判昭42.4.27.)。
このケースでは、死亡を知らずに処分を行なっていますので、単純承認にならない可能性があります。あきらめずに、弁護士にご相談ください。
3-5
- 1年前に父が亡くなりましたが、借金は全くないと聞いていたので、相続の放棄も承認もしませんでした。ところが、多額の借金の連帯保証人になっていたことが判明しました。今から相続放棄ができないでしょうか。
- 相続放棄は、自分が相続人となって相続が開始したことを知ったときから3か月以内にしなければなりません(民法915条1項)。しかし、3か月以内に相続放棄をしなかった理由が、相続財産が全くないと信じたためであり、そう信じるにつき正当な理由があった場合には、相続財産の全部又は一部を認識した時又は通常認識すべき時を3か月の起算点とする旨の判例があります(最判昭59.4.27.)。
このケースでも、3か月を過ぎてしまったことに正当な理由があれば、相続放棄が認められる可能性はあるでしょう。
4.遺産の管理
4-1
- 遺産分割までどのように遺産を管理すればよいでしょうか。
- 遺産は、分割するまでは相続人全員の共有に属するとされており、相続人が共同で管理するのが原則です(民法898条)。共有財産の管理や処分については定めがあり、①保存行為(財産の原状を維持する行為)は、各相続人が単独ででき、②管理行為(財産を利用したり改良したりする行為)は、相続分の過半数の割合の合意によってでき、③処分行為(財産を処分する行為)は、相続人全員の合意が必要です(民法251、252条)。
あなたが行なおうとする行為がどの類型にあたるか、具体的にどのように対処すればよいか等について、詳しくは弁護士にお尋ねください。
4-2
- 相続人の1人である兄が、無断で通帳と印鑑を持ち出し、相続財産である家財道具を売り払い、預金債権を引き出してしまいました。
- 分割前の相続財産は相続人間の共有財産ですので、財産の処分には全員の同意が必要です(民法251、252条)。従って、1人が勝手に財産を処分しても、他人の権利を処分したことになるので、法律上無効のはずです。
しかし、動産[*]の場合、事情を知らない買主が財産を取得してしまう可能性があります(民法192条)。また、預金債権についても、債権の準占有者に対する弁済(民法478条)として、有効な払い戻しとなり、再度の支払いを銀行に求めることができない可能性があります。
これらの場合には、相続分相当額を兄に請求するしかありません。
4-3
- 父と同居していた長女が、父の死後も家屋を無償で使用しています。他の兄弟から家屋の立退きを求めることができるでしょうか。
- 相続人間の共有物である家屋の管理については、相続分の過半数の決定によります(民法252条)。
従って、原則として、長女に家屋を使わせないことにつき相続分の過半数の同意があれば、立退きを求めることができることになります。
ただし、上記の原則を機械的に適用すると、あまりにも長女に過酷な結果となる場合には、立退きを求めるだけの合理的理由が必要だとするのが、判例・実務の傾向です(最判昭41.5.19.)。
合理的理由があるかどうかは、立退きを求める必要性や長女側の事情等を総合的に考慮して判断されます。
4-4
- 親の遺産である土地の活用方法が決まるまでは、他の権利者[*]に入ってきて欲しくありません。土地の持分を勝手に処分できなくする方法はあるでしょうか。
- 分割前の遺産は相続人間の共有物ですので、共同相続人[*]はいつでも協議による分割を申し出る事ができます(民法907条1項)。
もっとも、共同相続人間で分割を禁止する合意があれば、遺産の分割を禁止できます(不分割契約)。この不分割契約は、分割禁止の登記をしておけば、共同相続人から持分(権利)を譲り受けた者に対しても主張できます(民法254条)。また、特別の事情があれば、家庭裁判所が分割禁止の審判を出す場合もあります。
分割禁止期間は、5年を超えることができないと解されています(民法256条1項但書類推、908条類推;名古屋高決昭43.1.30.)。
以上をまとめますと、共同相続人で不分割契約を結び、その登記[*]をしておけばよいことになります。
5.遺産の分割
5-1
- 亡くなった父親名義の不動産の遺産分割が終わらないうちに、母親が亡くなりました。
相続人は私たち兄弟だけです。どのように遺産分割手続きを進めればよいでしょうか。 - この場合、母親がいったん父親の相続人となって父親の財産を承継し、その後に亡くなったという扱いになります。従って、ご兄弟による分割協議の際に、母親が取得していた持分についての遺産分割手続きもあわせてする必要があります。
分割のポイントは、父親の共同相続人である母親はすでに死亡していて、相続人全員が母親もあわせて相続することを明らかにすることです。
遺産分割協議書の記載方法や、分割にあたっての注意点等については、弁護士にお尋ねください。
5-2
- 父が亡くなり、兄弟で遺産分割の相談をすることになりました。父と同居して身のまわりの世話をし、生活費も負担してきた自分は、他より多く相続できるでしょうか。
- 父親を扶養することは、本来無償の行為ですから、相続と扶養は原則として無関係です。
ただし、扶養義務者が複数ある場合には、公平の観点から、親を引き取って扶養した者から他の扶養義務者に対して、過去に支出した扶養料のうち応分の額を求償[*]することができると解されています(最判昭26.2.13.)。従って、程度にもよりますが、遺産分割の際にこれを清算するよう求める余地はあるでしょう。
詳しくは、弁護士にご相談ください。
5-3
- 兄弟間で遺産分割協議をすることになりましたが、兄弟の中には、未成年者や海外在住者、所在不明者もいます。どのように手続きを進めればよいでしょうか。
- 未成年者は、遺産分割協議をする能力が不完全とされており、親権者が法定代理人として未成年者に代わって分割協議を行ないます(民法824条)。ただし、親権者も相続人として遺産分割に参加する場合には、子との利益が相反しますので、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう必要があります(民法826条1項)。
次に、海外在住者については、事前に手紙や電話により協議を行い、合意に至れば、遺産分割協議書を郵送して、署名をしてもらえばよいでしょう。
最後に、所在不明者については、家庭裁判所に選任された「不在者財産管理人」を不在者の代理人として遺産分割協議を行ないます(民法25条)。もし7年以上生死不明なら、家庭裁判所に失踪宣告の申立てをして、調査・公示催告のうえ、失踪宣告の確定によって法律上死亡した者として扱うこともできます。
5-4
- 亡くなった父親名義の預金を遺産分割のために払い戻すには、どのような手続きが必要でしょうか。
- 被相続人[*]名義で払い戻せれば簡単ですが、銀行が死亡の事実を知れば、被相続人名義での払い戻しはできなくなります。その場合には、相続関係届書を添えて、相続人全員で、払い戻し請求や預金相続人への名義変更手続きをすることになります。どのような様式や書類が必要かは金融機関にお問い合わせください。
なお、法的にみれば、金銭債権である預金は、相続により分割を待たずに当然に各相続人に帰属するとされていますので(最判昭29.4.8.)、自己の相続分を単独で払い戻すことが認められた例もあります(東京地判平8.2.23、東京地判平8.11.8)。
相続人全員による払い戻し請求が困難な場合、必要書類にご不明な点がある場合など、詳しくは弁護士にご相談ください。
5-5
- 私は、生前父から土地の贈与を受けました。相続人としては他に、姉・弟がいますが、父から財産の贈与を受けたのは私だけです。各々の相続分はどのようになりますか。
- 共同相続人[*]中に遺贈[*]や生前贈与を受けた者があるときは、その受けた限度において、その者の相続分を減少させ、共同相続人間の公平が図られます。これを「特別受益制度」といい、遺贈又は生前贈与を受けた相続人を「特別受益者」といいます(民法903条1項)。
ご相談の事情からすると、あなたは、特別受益者にあたると考えられます。
特別受益者がいる場合の相続分の算定方法は複雑ですので、特別受益にあたるかどうかや具体的な計算等、詳細については弁護士にご相談ください。
5-6
- 私は長年父の事業を手伝い、父の遺産の増加にはずいぶん貢献をしてきました。遺産分割にあたり、私の貢献分をどのように主張できるでしょうか。
- 被相続人[*]の事業に関する労務の提供等により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の貢献(寄与)をした相続人については、遺産分割時に、法定又は指定相続分にかかわらず、遺産のうちから寄与に相当する額の財産を取得できます。これを「寄与分」制度といいます。
ただ、寄与分は、特別受益のように受益があれば当然に相続分が修正されるわけではなく、共同相続人間の協議や調停等によって初めて認められるものです。寄与分が認められた場合には相続分の計算方法が複雑になります。
5-7
- 遺産の価値について、兄弟間で意見がくい違って、遺産分割手続きが進行しません。最終的に協議がまとまらないときには、どのような解決方法があるでしょうか。
- 遺産評価については、遺産分割時を基準に、取引時価を基準に評価するのが実務の取扱いですが、客観的価値が不明なものや、時価評価が食い違う場合もあります。
分割協議がまとまらない場合には、遺産分割の審判を家庭裁判所に申立てることができます(民法907条2項)。審判が開始されれば、裁判官が職権で事実調査をし、遺産を評価したうえ、各自の相続財産を決定します。
また、審判ではなく、調停の申立てをすることもできます。調停がまとまれば、確定判決と同じ効力をもつ調停調書が作成されます。調停が不調[*]に終われば、家事審判の手続きに移行します(家事事件手続法272条4項)。
審判や調停の申立ては、相続人のひとりから、他の相続人全員を相手方として行ないます。これらの手続きについて詳しくは、弁護士にお尋ねください。
5-8
- 遺産分割協議の結果、長男が遺産のすべてを相続するとともに、負債もすべて相続することになりました。このような取り決めは可能でしょうか。
- 債権者に対しては、債権者がこれを承諾しない限り、遺産分割の効力を主張することはできません。なぜなら、債権者からすれば、債権者に無断で資力の乏しい相続人ひとりに債務を集中させられたのでは、債権者が害される危険があるからです。従って、たとえこのような取り決めがあったとしても、銀行等の承諾がない限り、各相続人は法定相続分[*]どおりの債務を負っています。
もっとも、相続人同士では、このような取り決めをすることは自由であり、有効な合意ですから、債務を弁済した長男以外の相続人は、長男に求償[*]することができます。
このように、同じ取り決めでも、誰に対して主張するかによって、その効力が異なります。
5-9
- 海外赴任中で父の死亡を知らないうちに、他の兄弟だけで遺産分割協議がされてしまいました。協議内容には不満があるので、私を加えて再度協議をやり直してもらうことは可能でしょうか。
- 遺産分割協議は、相続人全員ですることが必要ですから、一部の相続人を除外してなされた遺産分割協議は、無効です。従って、除外された相続人は、再度の遺産分割協議をするよう、他の相続人に対して請求できます。もし他の相続人がこれに応じないときは、遺産分割の調停または審判を申立てることができます。
5-10
- 兄が母と同居して面倒をみる代わりに多くの財産を得る旨の遺産分割協議をしました。約束が守られなかった場合、遺産分割をやり直すことはできるでしょうか。
- 民法のルールからすれば、兄弟間の約束(債務)の不履行があれば、遺産分割のやり直し(解除)ができるように思われます(民法541条)。しかし、一部の者の不履行によって、複数の者の合意でせっかく成立した遺産分割協議が全部くつがえされてしまうのは、あまりにも法的安定性を害すること等を理由に、このような場合、遺産分割のやり直しを認めないのが、判例の取り扱いです(最判平元.2.9.)。
この結論には公平の見地からの異論もあり、賛否が分かれる問題ですので、詳しくは弁護士にご相談ください。
5-11
- 遺産分割は、やり直すことはできないのでしょうか。
- 共同相続人全員の合意があれば、遺産分割を解除して、再度の遺産分割ができるとするのが、判例の取り扱いです(最判平2.9.27)。相続人全員が合意していれば、法的安定性を考慮する必要がなく、これを認めない理由はないからです。
5-12
- 相続人のひとりが多額の生前贈与を隠していました。そのことを知らずにした遺産分割は無効だと主張できるでしょうか。
- 主張できます。遺産分割も意思表示ですので、詐欺、強迫、錯誤等に関するルールが適用されるからです。ただし、遺産分割が無効になれば他への影響が大きいため、実務上、錯誤無効の認定は慎重になされます。
5-13
- 兄弟で遺産分割を行いましたが、調べてみたところ、兄が相続持分を超える部分を得ていたことが判明しました。遺産を取り戻すことはできるでしょうか。
- 相続人が相続権を害された場合、事実を知ったときから5年、相続開始の時から20年以内であれば、「相続回復請求権」を行使して、遺産を取り戻すことが可能です(民法884条)。この権利は、本来は、相続人でない者に対して行使する権利ですが、共同相続人[*]の間でも、行使できると解されています(最判昭53.12.20.)。なお、共同相続人間のケースでも短期間で権利が時効にかかることが適当かについては、賛否が分かれています。
相続回復請求につき詳しくは、弁護士にご相談ください。
5-14
- 遺言の内容と異なった遺産分割をすることは可能でしょうか。
- 可能です。相続人全員の合意がある限り、遺言や法定相続分に拘束されることなく、自由に遺産分割をすることができると解されています。なぜなら、遺言には相続人全員の自由意思までを拘束する効力はないと考えられているからです。
6.相続人の不存在
6-1
- 身寄りのないお年寄りが亡くなりました。相続人が現われるまでの間、あるいは相続人が現われない場合、財産の管理はどのようにするのでしょうか。
- 相続人の有無が不明の場合、相続財産はそれ自体が法人とされ、その管理が開始されます(民法951条)。
相続財産が法人とされると、家庭裁判所は、利害関係人らの請求[*]により相続財産管理人を選任し、相続財産管理人が、相続人を捜索するとともに、相続財産の管理にあたることになります(民法952、953、27~29条)。
6-2
- 身寄りのない隣人が亡くなりました。私は生前、食事の世話や掃除洗濯など身の回りの世話をしてきましたが、相続人になれるのでしょうか。
- 相続人がいない場合、相続財産は国の財産になりますが、「特別縁故者」として認められれば、相続人として認められる可能性があります(民法958の3、959条)。
特別縁故者とは、①被相続人[*]と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めた者、又は③その他被相続人と特別の縁故があった者をいいます(民法第958条の3第1項)。相続人の不存在が確定してから3か月以内に、家庭裁判所に申し立てることが必要ですが、必ず認められるとは限りませんので、事前に弁護士に相談されることをおすすめします。
6-3
- 土地建物を共有していた弟が亡くなりました。相続人のいない弟には、長年身の回りの世話をしてきた知人がいます。弟の持分は、誰のものになるのでしょうか。
- 民法は、共有者のひとりが相続人なく死亡したときは、その持分は他の共有者に帰属すると定めています(民法255条)。また他方で、相続人がいない場合、特別縁故者[*]があれば、相続を認める旨の定めもあります(民法第958条の3)。
このふたつの規定のどちらが優先するのか法律上明らかでないため、しばしば問題になります。最高裁判例によれば、特別縁故者による相続への期待を重視して、特別縁故者の相続が優先するとしています(最判平元.11.24.)。しかし、特別縁故者は必ず認定されるとは限りませんので、まずは弁護士に相談されるとよいでしょう。
7.遺言
7-1
- 父は常々「この家はお前にやる」といってくれています。遺言書を書いてもらう方がよいでしょうか。また、どんな遺言書にすればよいですか。
- 口頭の約束だけでは、法律上の遺言にはなりませんので、遺言書が必要です。遺言の方式には、普通方式と特別方式があり、通常利用される普通方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三つの方式があります。遺言書についてはこちら
遺言書はいずれも、厳格なルールが定められていますので、間違いのない遺言書を作るためには、弁護士にご相談されることをおすすめします。
7-2
- 入院中の父親の病状が重く、いつ亡くなってもおかしくない状態です。今からでも遺言書を作ってもらうことはできるでしょうか。
- 病状にもよりますが、遺言という行為を判断できるだけの能力(遺言能力)があるかが問題です。遺言の際、診断書や本人の状況を録取した書面や映像を残しておく等の工夫をすれば遺言できる場合があります。
7-3
- 亡くなった父親の部屋を片付けていたら、遺言書が出てきました。開封してもよいでしょうか。
- 遺言書を発見した相続人は、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、検認[*]を請求しなければなりません(民法1004条1項)。これは遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きですから、そのおそれのない公正証書遺言の場合には、検認手続きは不要です(同2項)。そして、封印がある遺言書は、検認手続き終了後、すべての相続人またはその代理人の立会いの下で開封されます(同3項)。なお、検認・開封手続きはあくまでも偽造変造の防止のための制度ですから、遺言書の有効性とは無関係です。
検認・開封手続きを怠れば、5万円以下の過料の制裁がありますし(民法1005条)、場合によっては、故意に遺言書を隠匿したものとして相続ができなくなったり、遺贈[*]を受ける資格を失うこともありえますので、注意が必要です(民法891条5項、965条)。
8.遺留分
8-1
8-2
- 遺留分を侵害する遺贈は当然に無効なのでしょうか。それとも、何らかの請求をする必要がありますか。
- 被相続人[*]が遺留分[*]を侵害する遺贈[*]をしても、当然に無効となるものではありません。遺留分権利者は、「遺留分の減殺請求[*]」をすることによって、はじめて財産を取り返すことができます。
権利を行使するには、遺留分の減殺をする旨の意思表示をすれば足りますが、トラブル防止のためには内容証明郵便で通知するのが無難でしょう。減殺請求権の行使は、相続の開始及び減殺すべき贈与や遺贈があったことを知ったときから1年以内にする必要があります(民法1042条)。減殺の順序や第三者との関係等、複雑な手続ですので、詳しくは弁護士にお尋ねください。
8-3
9.遺贈・贈与
9-1
- 亡くなった叔父から土地の遺贈を受けました。土地の登記名義を移すにはどうすればよいでしょうか。
- 遺贈[*]を受けた者(受遺者)が所有権移転登記手続きを受けるには、登記権利者である受遺者と、登記義務者である相続人(または遺言執行者)と共同で申請する必要があります。その際、権利証(または登記識別情報)、戸籍謄本類と全相続人(または遺言執行者)の印鑑証明書が必要になります。
手続きの詳細は弁護士にお尋ねください。
9-2
- 夫は、「長男が私の生活費の面倒をみるという条件付きで、死後所有不動産を遺贈する」旨の遺言をしていました。ところが、夫の死後、長男はいっこうに生活費を負担しようとしません。この遺言はどうなるのでしょうか。
- 負担付遺贈[*]を受ける者(受遺者)がその負担した義務を履行しなくても、遺言が直ちに失効するわけではありません。この場合、相続人又は遺言執行者が、受遺者に相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がされなければ、遺言の取消しを家庭裁判所に請求する必要があります(民法1027条)。
9-3
- 父は、「死後別荘を姪に遺贈する」旨の遺言をしていましたが、父より先に姪が亡くなってしまいました。姪には子がいますが、別荘は誰のものになるのでしょうか。
- 遺贈[*]を受ける者(受遺者)が遺言者の死亡以前に死亡したときは、遺贈の効力は生じません(民法994条)。従って、遺贈するはずだった財産は、姪の子のものにはならず、相続人によって相続されることになります(民法995条)。